コンセプト

冷たい水の香り
冬の終わり
月に堕とされた砂の香り
なにかがはじまろうとしていた
闇に浮かぶ波
あなたの指先の香り..
永遠を含んだ瞬間へとひろがった

瞼を
とじた

記憶との追いかけっこを
なるだけ鮮明に
香りをパズルのピースにして
その時を
捕まえようとした

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すきな香り

忘れられない香り
忘れたくない香り

忘れられないできごと
忘れたくないできごと..

目を とじて
その中を触って
そして
 感じるのは

人間の記憶の曖昧さです

忘れたくないことを
忘れてしまう

忘れたいことは
忘れなかったり
それなのに
絶対的なものの風化は
さけられない

感覚の記憶は
自分の中だけに残されるといゆう存在であるかぎり

不確かで不透明で形のない半透明のゼリーのようです

過去と現在の距離と輪郭を霞ませながらも
確実に
その“ある時”を甘いゼラチン質のなかにとじこめて
ゆれている

その“記憶”と呼ばれるものは
つねづね不思議な存在で

定着させようと思い出すたびに 
形を 変えてしまうものなのだと
最近の科学はいうのです

ということは

目をとじて
“ある香り”を思い出すこともまた

その度に変化を導いてしまうのでしょう

思い出すたびにかたちを変えてしまうのなら
その感覚のゼリーの中身は

記憶に触れるたび
かすかにでも 変わっていってしまうということです

でも
不思議なことに

逆はというと
そうでもないらしく

香りが手繰り寄せる 記憶というのは

そのある時を 鮮明に
蘇らせることが
できるのだそうです

香りと記憶は
ふかく ふかく 

それは 結びついているから

香りから呼び起こされる記憶や感覚というのは

きちんと 保存されており

それは「そのとき」をかなりきちんととっておける
方法のようです

「思い出す」ことは 記憶を変化させてしまうのに
「香りによって思い出す」ことは

必ず
鮮明な記憶と
結びついていると いうのです

ある香りを感知したとき

たしかに
わたしたちの脳からは なにかが
  とろとろにとけだして
割れた卵から黄身がしたたるように

記憶の透明ゼリーが流れ出すような
感覚は たしかに あると そうおもう

小さな香りによって
とろとろと

あるいは 街中でみつけた香りによって
とろとろと

 蘇る さまざまなこと

それは例えばあなたの上着のボタンの形であったり

誰かのちょっとした仕草だったり

その瞬間のこころの動きだったり

はたまた
優しくわたしの首を 通った風の肌触りだったり
する

ときに
胸が苦しくなるのは

その記憶が刻まれたときに 胸が
  苦しかったからなのか

それとも
なにかを思い出せそうな

掴みきれない”その時”を感じることによる
焦りなのか

それは だれにも きっと わからない

突然降り出した雨
アスファルトに立ち上る 匂い

みなが はっとする 時間

そこに それぞれに あった
  瞬間 と 物語を
きっと みな それを 掬わせてと願うけれど

捕まえたとおもって
掴んだとおもってそっと手を開いてみると
なかったりも する